「言の葉の庭」の救いについて
梅雨入りしてすっかり「言の葉の庭」の季節である。
上映当時は友人と「やばいこれ。絶対新宿御苑にサブカル出会い厨が沸くやつやん」という話をしていたのが懐かしい。
毎年梅雨になると言の葉の庭を見るという風物詩がある我が家。今年も例にもれず一人で上映会をした。
なので、超超いまさらなのではあるが言の葉の庭の感想を書きたいと思う。
何を隠そう私は新海誠ガチ勢。そして彼の作品の中で一番言の葉推しなのだ。
それは、言の葉が「救い」の物語であるからだと思う。
※以下、ネタバレ含みます。
タカオと救い
言の葉の主人公タカオには、靴職人になりたいという夢がある。
靴職人がどうやったらなれるものなのか私はよくしらないが、
人とは違う道を選択しなければならない大変さがある、ということだけはわかる。
そんな道を選ぼうとしているタカオは、一見大人からすれば夢見がちにも見えるかもしれないが、バイトでお金を稼いで貯金し、靴職人の専門学校(?)のパンフレットを取り寄せ、家事などもそつなく行うしっかり者だ。
若者らしいひたむきな情熱があると同時に、堅実で大人びた部分もあって、それが彼の魅力につながっている。
そんなタカオはユキノさんと新宿御苑で出会って仲良くなっていくわけだけれども。
まっすぐで夢しかみていない、ちょっと堅物っぽいタカオが、
ミステリアスな年上の美人にいきなり知らない短歌を詠まれてごちゃごちゃ考えてみたり、
一緒にふざけて笑ってみたり、
足の大きさを測らせてもらってドキドキしたり、
年相応に青少年してるところがめっちゃかわいい。
どことなく謎めいているけど、優しくて大人なユキノさんにだからこそ、
彼をそうさせ、靴職人を目指していることを話すまでに至ったのだと思う。
物語内では言及されていなかった気がするが、タカオが靴職人のことを話した他人って、ユキノさんだけじゃないかな。
夢って、信用している人にじゃないと言いたくないよね。
言の葉ではユキノさんの救いが語られがちだけど、
タカオも同じく御苑での逢瀬によって救われていたはず。
ユキノさんの救い
はいきましたユキノさん。
上映当時私は大学生だったが、社会人になってから見返すとユキノさんへの共感がヤバいということに気がついた。
最初は何も明かさず会社をさぼったかのような雰囲気で登場し、
新宿御苑で逢瀬を重ねてタカオと仲良くなっていくユキノさん。
ショートボブが似合う美人で、序盤ではタカオの言う通り
「世界のひみつそのもの」みたいなかなりミステリアスでクールな雰囲気の女性。
年上好き男子はこういう年上女性が好きなのでは???という要素を詰め込みまくったかのような女性。(※個人的な見解です)
タカオも、「あの人にとって、15の自分はガキ」的なことを言っている。
しかし、ユキノさん。まあいろいろとアレな方だったりする。
上のタカオの表現に対応し、「27歳の私は、15歳のわたしよりひとつも賢くない」的なことをユキノさんが言うシーンがあって、ここで鑑賞者はまず「おっ?」となると思う。
また、味覚障害のようなものになってしまい、チョコレートとビールしか味がわからない、とユキノさんが元恋人に話すシーンもあり、ここでも同じく鑑賞者は「おっ?」となるだろう。
どことなく登場時から陰のある美人ではあったが、
このへんから少しずつユキノさんの陰があらわになっていく。
帰ってきてベッドに倒れこむシーン、片付けられていない自室、
落として割れるファンデーションのコンパクト、と不穏な雰囲気を出され続け、
ついに例のシーンに至るのである。
タカオとユキノさんが高校ですれ違って、
タカオがユキノさんを自分の高校の教師だと知ってしまう。
そこからはどことなく陰があるユキノさんのネタばらしがはじまる。
ユキノさんが国語の教師だったこと。
とある生徒にあることないこと言われ、教育委員会だかPTAだかが出てくるレベルの騒動に巻き込まれたこと。
そのせい(?)で同僚の元恋人とも別れたこと。
また、そのせいで味覚障害のような症状が出ていたこと。
なるほど、そうだったのか。となる。
で、そのあとタカオと御苑で再会して、豪雨にみまわれたから自分のうちで雨宿りさせるんだけど。
そこでタカオに告白されたのに、「ユキノ先生でしょ」って牽制しちゃうのよね。
うん。正しい。生徒と先生なんだから、これ以上どうこうなるというのは不可能だし警察沙汰になってしまう。
けどさ、タカオからしてみれば、
あんだけ思わせぶりなことしておいて、ずるいにもほどがあるよな!?
って感じよね。
ユキノさんは制服を見て、うちの高校の生徒だって最初からわかっていたはずだし。
何度も御苑で会ううちに、タカオの気持ちに気づかなかったわけでもないでしょうに。
こうやって見てみると、ユキノさんは結構めんどくさい女である。
ほかの言の葉の感想ブログみると、大体「依存心が強くて幼い」とか「めんどくさい」とか言われている。
たぶんだけど、冒頭のミステリアスでクールな大人の女性とは打って変わって、
ユキノさんは端的にいえばメンヘラなのだと思う。
繊細で内向的で、自分から積極的に発信するのが苦手で、かつ例の事件で精神を病んでしまった人。
だからこそ精神的にあまり強くない私は共感してしまうのだけれど。
生徒からの嫌がらせが飛び火しまくってひどい事態になり、
怖くて出勤できなくなってしまった気持ちも。
帰ってきてすぐベッドに倒れこむ気持ちも。
タカオを見てまぶしく思う気持ちも。
生徒だとわかっているのに、つい話している間に癒されてしまい、
御苑で会うのをやめることができなかった気持ちも。
だから、うれしかった。
最後にユキノさんが自分の足で走り出したときは。
タカオに
「あんたは一生ずっとそうやって大事なことは絶対に言わないで 自分は関係ないって顔してずっと独りで生きてくんだ」って気持ちをぶつけられて。
泣きながらタカオにだきついてわんわん泣いて。
「毎朝…毎朝ちゃんとスーツ着て学校に行こうとしてたの。でも恐くて…どうしても行けなくて。あの場所で…私…あなたに救われてたの。」
って。
はじめてユキノさんが。自分のことをさらけだしたり語ったりしようとしなかったユキノさんが。自分の思っていることを自分の言葉で伝えたシーン。
よかったね、よかったね。。。
大人に見えるけど、幼い自分の心の奥の叫びを抑圧していたユキノさん。
ここで毎回泣きます。
俺らの救い
ユキノさんが救われると同時に、救われる存在がいる。
それは、数々の新海作品を見てきた戦友たちだ。
私たちは知っていた。新海作品は美しいことを。そして同時に大体悲しいエンドであることを。(例:秒速5センチメートル)
だから多くの人が思ったことだろう。
タカオがユキノさんの家から飛び出していったシーンあたりで。
「なるほどな、ああ、そうだよな..新海だもんな...はー映像作品も心理描写もきれいだった....ハア」
そして、めちゃくちゃ感動したことだろう。ユキノさんが走り出すあたりで。
「えっ?!バドエンじゃない?!まじか?!おおおおお!?」
と。
そう。言の葉のハッピーエンド。ここで多くの新海ファンたちも救われたことだろう。
次に見るときはニコニコで弾幕をうちながら見てみたい。